5分で『スマホを捨てたい子どもたち 野生に学ぶ「未知の時代」の生き方』山極寿一著(2020年初版)‥‥は語れなかった。
スマホでの人間関係に疲れた子供達を慰めるお話かと思ったのですが、
スマホ、特にSNSが連綿と続く人類種の性質に合わない、という内容で、読後ションボリ。
しかしひと晩考えてみて、実は高校生への『人類学、おもろいで。京大おいで』というメッセージなのでは?と気付きストンと腑に落ちたのでした。
拙者のモヤモヤしたところ
- 参考文献が書いていない。成否を確かめたり内容を吟味するにはどうしたらいいのか。
目次
第1章 スマホだけでつながると言う不安 ゴリラ学者が感じる人間社会の変化
(‥‥うぬぅ‥‥SNS否定は賛成できかねる‥‥)
第2章 僕はこうしてゴリラになった 生物としての人間を知るために
サル学のお話、とんでもなく面白いです。
- かつての人間社会を知る方法は、進化的、系統的に近い種から類推するのが良い。現代に生きている猿を知ることが人間を知る近道。
- サルだけでなく「人間以外の生物はすべて社会と言われるものを持っている」と最初に主張したのは日本の研究者、今西錦司である。著者の師匠、猪谷純一郎さんのそのまた師匠でもある。(動物にも社会を編むものがいると言う一種アニミズム的な考えは西洋の学者の案では無いだろうなとは思っていたけれど、まさか日本人とは)
- 文化人類学のフィールドワークは研究対象の村落に長期滞在することが重要だそうだが、著者は全く同じことをゴリラの群れに対してしている。凄まじい。ゴリラ国へ留学するがごとし。
- “人間同士が経験を共有できるのは言葉によってフィクションを作ることができるため”とあるがユヴァル・ノア・ハラリ『サピエンス全史』、吉本隆明『共同幻想論』でも集団が共通のイメージを持つことで協力した活動がしやすくなるとある。人類学ではこの説は一般的なのだろうか。
🦍「グッグフーム」
- 目を見つめるのはニホンザルは角上から角下への威嚇、ゴリラはたくさんの意味を持つようである。人間が見つめ合う時、威嚇するだけでは無いように。(小学生の頃、長野県にてニホンザルの目を見て威嚇される体験をした。ゴリラとの種の違いを感じて面白かった)
- 群れにいる子ゴリラはお父さんであるシルバーバックが子育てするようだ。森の中で目立つ白い背中は、子ゴリラたちが追いかけやすいようにかもしれない。
第3章 言葉は人間に何をもたらしたのか ゴリラから見た人間社会
- 言葉はポータブル。言葉を得た人間はフィクションを生み出した。人間の認知能力は、言葉の発明によっていちど作り替えられている。これは「認知革命」と呼ばれる。(2011年初版ユヴァル・ノア・ハラリ『サピエンス全史』にもあった)
第4章 人間らしさって何? 皆で食べ、育て、踊る人間の不思議
- 共食、共同保育‥‥食物分配は育児負担が大きい社会で起こる。多産と長期発育が食料分配を促す。また、脳の大きさよりも食料分配が共感力(アザー・リガーディング・ビヘイビア)の要因になっていると予想されている。
- 音楽‥‥共感力を向上させるのは音楽である。言葉の通じない赤ちゃんにかける言葉「マザーリーズ」にはピッチが高く、変化の幅が広く本が長めであり、繰り返しが多いなど世界共通の特徴がある。これらが音楽へ進化していったのではないかと筆者は考えている。(ジャン・ジャック・ルソー『言語起源論 旋律と音楽的模倣について』から着想?)
- 踊り‥‥筆者の考える、二速歩行によって人間が得た3つのうちの1つ。感情を伝える身体表現として、ゴリラもドラミングなどがある。
(踊りについての説明が少なかったかなぁ。ここもっと読みたかった)
第5章 生物としての自覚を取り戻せ AIに支配されないために
(‥‥うぬぅ‥‥ここもあんまり共感できない‥‥)
第6章 未来の社会の生き方 生活をデザインするユートピアへ
以下の言葉は勉強になりました。
- VUCA(ブーカ)‥‥現在は、可動性、不確実性、複雑性、曖昧性の頭文字をとっての時代と呼ばれている。
- ベーシックインカム‥‥就労や所得などに関係なく、政府が全国民に定期的かつ無条件に最低限の生活を送るのに必要な現金を個人単位に支給する制度
- プラネタリー・バウンダリー‥‥地球の限界。それを越えなければ人類は将来も発展と繁栄を続けられるが、超えると急激な、あるいは取り返しのつかない環境変化が生じる可能性がある境界のこと
- 容中律‥‥肯定でも否定でもなく、肯定でも否定でもある、とする論理
- 排中律‥‥どのような命題も進化技のいずれかであるとする論理
- 創発‥‥個々の単純な動きが相互に作用することで、全体では思いもよらない高度な秩序が生まれること(←カオス理論?)
著者像
山極寿一(やまぎわ・じゅいち)著
1952年東京都生まれ。霊長類学・人類学者。
2014年から京都大学総長、2017年6月から2千19年6月まで国立大学協会会長、2千17年10月から日本学術会議会長を兼任。
著作に『「サル化」する人間社会』、『京大式おもろい勉強法』、『ゴリラからの警告「人間社会、ここがおかしい」』など。
この本は高校生が読むべきだ
スマホを捨てたいと言うけれども、そもそも中高生はそんなにスマホ持っているのでしょうか。
内閣府調査によると、2019年、高校生では91.5%、中学生では53.5%がスマホを所持しているとのことです。
高校生のスマホ普及率9割越え。持っていない子の方が圧倒的少数派なのですね。
LINEのクラス全体のルームや既読付け、親からGPSで監視など、相当な拘束力を持つに違いありません。
スマホ、特にSNSによる人類種の本質にそぐわないコミュニケーションに悩んでいる子どもたちへ、
「本来の人類に立ち返って、必要なコミニケーションとはどのようなものか考えてみるのもいいよ、面白い事をしているから、京大へおいで」
と言う,、スマホのSNSが子供に与える悪影響の科学的検証というよりは著者の人類学への招待メッセージなのかもしれないと思ったのでした。
拙者は‥‥捨てない‥‥