積読が山脈でござる🍀

拙者、四児母オタク主婦。積読本記録と妄想感想文でござる。育児や教育の本が多いです。

『おちゃのじかんにきたとら』はナチス?の巻

ほんわかお茶の時間にやって来たトラ、実はヒトラーナチスの暗喩なのかも知れないという拙者の深読みについて書いたでござる。

 

 

ほのぼのだけどどこか怖い『おちゃのじかんにきたとら』

ジュディス・カー作、晴海耕平訳、童話館出版の絵本でござるよ。

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拙者が最初に読んだのは小児科の絵本コーナーでござった。

少し痛んでいて古く、海外の翻訳絵本で、透視法が使われた技巧的ながらユニークで温かみのある絵柄。きっと名作であろうと拙者は手に取ったのでござる。

 

 

 
【あらすじ】

 

ある日父親が仕事に出かけた後、ソフィーと母親がお茶を楽しんでいると、突然大きなトラがやって来た。

丁寧な態度のトラはしかし、お茶やお菓子のみならず、家中の全ての飲食料を食べ尽くして帰ってしまう。作りかけの父親の夕飯、冷蔵庫の中身、保存食も全て。水道水も飲み切られ、ソフィーはお風呂に入れない。

途方に暮れる中、父親が帰宅。外食に出かけて事なきを得る。

母娘は次の日に食料を買い出しに出かけ、ついでにタイガーフードというトラ用の缶詰も購入するが、それ以後トラは二度と再びやってこなかったというお話。

 

 

 

【恐怖ポイント① トラの目が怖い】

 

このトラ、他の登場人物である母親、ソフィー、父親と違って大変目が鋭いでござる。

体もソフィーの3倍近く大きいし、前足も顔くらいの大きさにござる。

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ジロリ。

 

 

【恐怖ポイント② 日常を脅かす暴力の象徴】


拙者が1番ゾッとしたのは、ソフィーがお風呂に入れなかったという一見ほのぼのしたページでござる。

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日本ならその日の水がなくなってしまうと言う事がないでござるが、当時絵本が出版された英国ではその日1日に使える水の量は決められてたのかもしれぬでござる。

 

平穏な育児は、保護者の精神的な安らぎと彼らの属する社会の持続的安定を示すように思うでござる。

お風呂に入れないということは、平穏な日常が家の中も外も破壊された比喩に思えたでござる。

この母娘は鋭い爪と牙を持つ猛獣に食べられかけた、それと共に、もう外の世界も真っ当な育児が出来ぬ社会と化してしまったように感じたのでござる。

 

連想したのはあれでござる。8月6日や8月25日に小学校で見た戦争アニメの、赤ちゃんが空腹で泣いているのに栄養失調でお乳が出ない母親でござる。

 

食べ物や飲み物が無くなるところは、よくある荒唐無稽な絵本だと思って読んでいたのでござるが、ソフィーがお風呂に入れなかったことに(ややこれは何かあるぞ?)と不穏と共に強い興味を覚えたのでござった。

 

 

 

【ジュディス・カーはナチスから逃れたドイツ人】

 

こちらは絵本の作者紹介にござる。

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ことバンクによると…

生年月日1923
出生地ドイツ ベルリン
経歴1933年ナチスの圧迫を逃れ演劇評論家であった父とドイツを離れる。スイス、フランスを経て、’36年渡英。この頃の経験は小説「ヒットラーにぬすまれたももいろうさぎ」にまとめられた。ロンドンの美術学校に学び、BBCに勤めている時に脚本家のナイジェル・ニールと知り合い、’54年に結婚。女優となる2人の娘、小説家となる息子をもうけた。’70年忘れん坊で気がよく、とても愉快なモグという猫を主人公とした絵本「わすれんぼうのねこ モグ」で絵本作家としてデビュー、人気を集めシリーズとなった。他の著書に「もう一羽のがちょう」「おちゃのじかんにきたとら」「いつもふたりで」などがある。
https://kotobank.jp/word/%E3%82%B8%E3%83%A5%E3%83%87%E3%82%A3%E3%82%B9%20%E3%82%AB%E3%83%BC-1679959

 

ああ、あの不穏の正体はナチスであったのかと合点が行き申した。


ジュディス・カーの生い立ちを鑑みると、丁寧な様子でお茶の時間にやって来るトラはナチスの暗喩もしくは戦争の影以外に読めないでござる。

父親の提案で外食に行くのも、10歳の時にお父さんとドイツを離れているのと類似点が多くござる。

きっと普段は優しい態度で子供達に人気があったのかも知れない事をトラにやたらと懐くソフィーを見て思うでござるよ。

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怪しげな人影とトラに似た猫

 

最後にまた謎を呼ぶのが、外食に行くシーンで出てきた怪しげな人影とトラに似た猫でござる。幸せそうなソフィー家族と反対を向く人影。そしてトラの様な猫…。

 

このお話は他にも色々深読みができるでござる。

 

  • 育児に一生懸命で夕食が作れなかった言い訳を夫にする妻。

 

  • 母親が精神的な病気で、泥棒に入られたのをトラに食い散らかされたと思い込んでいる。

 

  • このお話自体、略奪現場にいたソフィーの心にトラウマを残さぬ様、安全に脱出できたのち(外食に出たこと。トラになったのは、偶然トラ模様の猫が通り掛かったから)父母が「あれはお腹を空かせた大きなトラがね…」とソフィーの記憶を上塗りしようとして話したエピソードである。

 

こんな無粋な邪推はせずにそのまま荒唐無稽・不条理系の絵本として楽しむのもアリでござる。拙者かなり楽しめたでござるよ。

 

これにて御免。

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